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指と指とで繋ぐ架け橋

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ambrosia/片柳ミモザ様より

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【 指と指とで繋ぐ架け橋 】

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  右側の違和感に気がついて、俺は夢中で飛び起きた。心臓がばくばくと飛び跳ねて、体温がさあっと低くなっていくのが分かった。
 俺の裸の上を、シーツがするりと落ちていく。寝起きの目を瞬かせてみると、まだ日は昇ってはおらず、カーテンの隙間からは夜の闇に浮かびあがる星の煌めきが差しこんでいた。
 昨夜泊まったのと同じ部屋、さっきまでいたのと同じ場所のはずなのに、隣にいたセフィロスだけが消えている。手を伸ばして確かめると、まだシーツは温かかった。
 どこへ行った、風呂場か、便所か──。しかし、それらしい音は聞こえない。
「……セフィロス──?」
 小さな声で呼んでみた。しかし、応えはなかった。
 ベッドから足を下ろして、俺はゆっくり立ち上がった。躯にズキンと痛みが走った。俺は思わず眉を寄せて、体の震えが消えるのを待った。
 まだ、この部屋にも俺にも、セフィロスの痕跡が残っている。だから間違いない、セフィロスはここにいた。
 どこかに隠れているだけで、彼は確かにいるはずだ。そう信じたい俺は脱ぎ捨てられた服を拾うと、それを穿いて、袖を通した。
 未だ俺は、慣れていない。セフィロスがいる不自然さと、セフィロスがいない不自然さに。
 隣にいると鬱陶しいのに、いないと気が気でなくなってしまう。いつも、覚悟しているはずなのに。きゅ、と口唇を噛み締めて、俺はそっと部屋を出た。
 海の近い宿だった。山を超えて森を抜けて、俺は疲れきっていた。
 セフィロスはいつものように俺を疼かせ蕩かせたけど、疲れに負けて眠ってしまった。くそ、と、舌打ちしたくなるのを堪えた。
 まだきっと、そう遠くへはいっていない。期待通り、宿を出た少し先で、星の光を集めて煌めく銀色の後ろ姿があった。
「……………」
 す、と、胸が楽になるのを感じた。安心した、ことを感じながら、悔しさと苛立ちがこみ上げてきた。
 どうして俺が、なんであんたは──。今更、なにを思ったって仕方がない。
 セフィロスがそこにいた、それだけで十分だ。セフィロスを見失わないように、俺は揺らめく後ろ姿をじっと見つめて、歩き始めた。
「なにしてるんだ?」
 近づきながら、俺は尋ねた。薄い草が俺の靴を受け止めた。セフィロスが首を傾げて、長い髪がさらりと揺れた。
「起きたのか」
 振り返らないまま、セフィロスは答えた。夜風は涼しく、空気は和やかだった。全ては杞憂だったのだ。俺はほっとして、小さなため息をついた。
「勝手に出歩くなよ」
 セフィロスの隣で、俺は立ち止まった。文句を言ってみたところで、セフィロスが聞き入れるとは思っていなかったけれど。
「勝手に寝たのはお前の方だ」
 セフィロスはそう言って、空を眺めていた。さざなみの香る風に吹かれる、セフィロスの横顔がちらりと見えた。
「起こせばよかったのに」
「起こしてよかったのか?」
 ふ、と、セフィロスが笑ったのがわかった。どうして笑ったのか、俺には多分わかっていた。
 こんな旅だ。ゆっくり休める夜なんて珍しい。
 だからセフィロスは、きっと俺に遠慮していた。そうして欲しいと俺が思っているのを知っていて。
「気味が悪い」
 風は、俺に対しても涼しさを連れてきた。ぶる、と軽く肩が揺れる。だけど、こんなのなんでもない。
「あんたが欲しいのは、そんな景色(モノ)じゃないだろ」
 俺は、きっと嫉妬していた。セフィロスがなにを欲しがってるか、俺にはきっとわかっていたから。
 セフィロスを慰めていた夜風に、星空に、潮の香りに。それ以上捕らわせてやりたくなくて、俺はそっと指を伸ばした。
 不安の理由はセフィロスで、苛立ちの理由もセフィロスだった。安堵の原因もセフィロスで、悔しさの理由もセフィロスだった。
 俯いたまま伸ばした指で、セフィロスを捕まえる。応えてこないセフィロスが、たまらなく憎らしかった。
「……………」
 俺の胸は、ドキドキしていた。すっかり知ってる温もりなのに、さっきも確かめたばかりなのに、セフィロスに触れただけで、初めてと同じような──、ときめきにも似たモノが、俺の中でざわめいていく。
 ふ、と口許を緩ませて、セフィロスは肩を揺らした。それがやっぱり憎らしくて、少しだけ安心した。
「身の程知らずが」
 セフィロスの冷たい声は、静かな夜によく響く。どっちがだ、と、言いたい言葉を呑みこんだ俺の手に、ゆっくりとセフィロスの指が落ちてきた。
「……………」
 風に冷やされたはずなのに、顔が熱くなるのを感じた。俺はなにも言えなくて、顔を上げることもできなかった。
 なにかしてくれ、言ってくれ。重ねた掌、繋いだ手が震えてしまわない内に。
 セフィロスは、意地が悪い。俺が黙っているのをいいことに、触れた手の甲をゆっくりと親指で撫でていく。
 焦れったくて、悔しくて──。繋がる右手の温もりを、ぎゅ、と掴んで顔を上げた。それを待ち受けていたように、セフィロスが俺を見下ろしてきた。
 あんたの目はそうやって、俺を映していればいいんだ。あんたの手はこうやって、俺を包んでいればいい。
 黙って見上げる俺の頬に、セフィロスの指がそっと伸びる。柔い曲線を描く掌が、そっと俺の頬を包んだ。
 俺がなにを欲しがってるか、セフィロスにはわかっていた。だから緩慢とした動作で、俺の口唇にそれを与える。
 何度も吸われた口唇は、今また鮮烈に俺の胸をときめかせ、ざわめきと喜びと安らぎを与えていく。
 繋いだままの右手で、俺はセフィロスの指を絡めた。決して離れないように、離してなどやるもんか、と。
 頬を撫でていくセフィロスが、俺の耳まで包みこんで。やがて接吻けは深くなって、優しさが薄れていく。
 だけど、その方が都合がいい。セフィロスの存在をより実感できるから。
 確かに俺は驕慢で、強欲だったのだろうと思う。だけど、相手もそうなのだから咎められる筋合いはない。
 舌と舌とを絡ませて、熱と熱とを持て余す。体と体を求めながら、心と心を通わせる。
 飽き足りない俺たちを、星は静かに見下ろしていた。不安も寂しさも、遠慮も消えてなくなったから、今夜はまだもうしばらくは、眠れそうにない。


0707
【0707】/201405加筆・修正

おおお…2014年の誕生日に2つもお話貰えるなんて思ってなかったよ!!ありがとう!サプライズすぎる…!
しかも2013年のらくがき七夕絵から想像してこのお話を作ってくれたようで…気に入ってもらえて嬉しいよ!!
当時ざっくり描いた絵がまた違って見える…そこはかとなく絵に色気が加わったような…。
AC後の距離感、関係性、お互いへの感情、それぞれ変わったもの変わらないもの、
全部が繋がって続いていくんだなぁ…セフィクラ堪らないです。みもさんどうもありがとう!!!
貰ったお話のタイトルを見た時に1つ思い出したのは、二人の位置を敢えてこうした事でした。
セフィロスの左手・クラウドの右手、今は剣を持たずに、そっと。

下のリンクからみもさんサイトへどうぞ!(セフィクラ、クラ受けサイトさまです)

ambrosia様

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